文化の違いが国際間交渉に与える影響

文化とは、食習慣や服装、建築様式といった目に見えることだけを指すのではなく、ある国や地域、社会で共有されている価値観や常識、無意識のうちに形成されている考え方も指します。

例えば、いかに意思疎通、意思伝達を行うべきと考えられているか、これも文化のひとつです。

あなたと相手が同じ文化圏にいる場合、コミュニケーションの仕方は自ずと似たようなものになります。

しかしコミュニケーションの相手が外国人となるとそういうわけにはいきません。

あなたが良かれと思って発した言葉や態度が、実は相手にとっては非礼であったり、逆に相手にとっては常識的な考えやコミュニケーションの仕方が、あなたの中の常識とかけ離れていることも多くなります。

そうなるとお互いの意思疎通、意思伝達がうまくいかなくなり、相手と接することが嫌になったり、相手に不信感を抱いたり、最悪の場合仕事上のトラブルに繋がります。

ここでは国際間交渉の場面で、どのように文化の違いが現れてくるのかを考察してみます。

交渉へのアプローチの仕方

「ハード型」か「ソフト型」か

「ソフト型」= 「Win-Win型」

交渉へのアプローチの仕方として、日本では相手と自分の双方が利益を得る「Win-Win」、いわゆる「ソフト型」が一般的かと思います。

こちらが何かを譲ることで相手にも何かを譲ってもらう、相手がしてくれたことに対して何かこちらも同等のものをお返しする、双方が満足するよう交渉を進めるというイメージでしょうか。

こうした「ソフト型」の交渉アプローチをとるところでは、相手との関係構築やその維持、相互協調やメンツを保つことを重要する文化に多いようです。

「ハード型」= 「Win-Lose型」

一方、それとは逆に「Win-Lose」「ハード型」のアプローチを取る文化ももちろん存在します。

他の言い方では「ゼロサム交渉」という呼び方もあるようですが、相手との関係というよりも、自分自身が多くのパイや利益を獲得すること、交渉に「勝つ」ことを重視する文化です。

交渉の分野ではたくさん書籍やネット情報がありますので詳しくはそちらに譲りたいと思いますが、「Win-Lose」「ハード型」が「できるだけ大きくパイの取り分を得る」ことを目指す一方、

「Win-Win」「ソフト型」では「パイそのものを大きくする発想をお互いに作り出す」ことが大事になるそうです。近年はそうしたアプローチを取る外国企業も多くなってきているような気がします。

一般的には西洋の企業は「Win-Lose」「ハード型」で、東洋は「Win-Win」「ソフト型」を採用するところが多いようですが、あくまで一般論ということでご理解ください。あなたの会社、またあなた自身はどうでしょうか?

交渉の目的の捉え方

言うまでもなく、交渉を行うのは相手と何らかの利害について調整するためです。

値段であったり、配送時期であったり、付帯サービスは何をつけるか、またトラブルがあった場合、誰がどんな対応を行うのか、などなど、交渉内容は多岐にわたるものです。

そしてここでも一般的な言い方になりますが、交渉の目的を「契約書の締結・合意書へのサイン」に重きをおく文化と、「相手との関係構築」に重きをおく文化があります

相手との関係構築に重きを置く捉え方

日本では関係者を接待でもてなしたりします。もちろん、最終的には契約書の締結や合意書のサインを双方が行うことは大事だとしても、より重要なのは交渉や食事、接待などでのコミュニケーションを通して相手といかに信頼関係を築けるか、ではないでしょうか。

また重要なことは事前会議や事前の根回しなどでほとんど議論をし尽くして決めてしまいます。

公式の会議というのは事前会議で協議したこと、決定したことをただ確認したり、会社の最終責任者が文書にサインをするだけの場と言っても過言ではないと思います。また契約書や公式文書にサインをするということは、ある程度の信頼関係ができたという印でもあります。

契約書の締結・合意書へのサインに重きを置く捉え方

一方、交渉の目的を「契約書の締結・合意書へのサイン」に重きを置く文化では、相手との関係構築というより最初から最後までビジネスに徹する傾向があります。西洋諸国ではその傾向が強くなり、とにかく契約書の案についてとことん協議を進めていこうとします。そうした文化では、契約書へのサインがあって初めて相手を信頼し、その契約書に基づいて実施を進めて行きます。

契約書の重み

契約書の内容を何が何でも遵守する

日本でも契約書というと重みがあると思います。

アメリカのメジャーリーグで活躍する日本人野球選手の話で、アメリカの契約書というものが分厚く、あらゆることが事細かく記載されていると聞いたことがありますが、欧米ではこの契約書に書かれている内容こそがビジネスをしていく上での基本方針であり、行動規範となります。そして何らかの事情でどちらかが契約書通りのことを履行しない場合は法的措置が取られます。

契約書は事情が変われば柔軟に変更可能と捉える

ところが契約書というのをタダの紙切れ程度にしか扱わず、いくら双方が署名をしたからといっても「状況が変わった」という理由で契約書に記載されていることを無視したり、履行しようとする意思を放棄するような文化もあるのです。

そうした国では契約書というのは金科玉条のごとく死守するようなものではなく、「お互いの人間関係と対話をもとに状況に応じて変更できるもの」ということが前提になっています。

私自身もこれについては経験があります。

プロジェクトの方針やお互いが負担すべきコスト項目が記載された契約書を交わしたものの、「今年度は残念ながらあまり予算が取れなかった、だから○○の項目を負担することはできない。あんたのところで何とかしてくれ」とあっさり言われ、目が点になったことがあります。

このように契約書そのものを重んじない文化では、司法制度が脆弱であるケースがほとんどとされています。

法的に争おうとして裁判所に持ち込んだとしても、うんざりするほど時間がかかったり、そこでの判決を守らなくてもなんとなく逃れられてしまう社会事情があります。

だから契約書そのものに重きを置くのではなく、相手との信頼関係、人間関係に依存しながらトラブルを回避したほうが合理的と考える社会なのです。

コミュニケーションの仕方

直接的・明示的か、間接的・暗示的か

交渉の進捗に最も影響を与えるのがコミュニケーションの仕方です。

特に直接的・明示的なコミュニケーション、つまり「ローコンテクスト」スタイルでのコミュニケーションを行うか、間接的・暗示的な「ハイコンテクスト」スタイルでコミュニケーションするかの違いは大きいと言えます。

間接的・暗示的

別ページでも触れたとおり、日本は世界一といっていいほど「ハイコンテクスト」なコミュニケーションを行います

つまり相手との関係や相手のメンツを壊さないよう、気分を害させないよう、例え何かこちらに不利なことがあったとしても直接的な言い方を避けようとします。

こうしたコミュニケーションはアジア諸国や南米、アフリカ、中東でも採用される傾向があります。

直接的・明示的

一方、アメリカやカナダ、オーストラリア、ドイツ、オランダ、イスラエルなどは日本と対極に「ローコンテクスト」スタイルです。そうした地域では思ったこと、感じたことを端的に、明確に示すことがヨシとされる文化です。

こうした文化の人達にとって、日本人のように婉曲表現を使ったり、言葉と意図が合致していないコミュニケーションは理解されにくく、相手はこちらに不信感を抱いたり、「何か騙そうとしているのではないか、何か隠しているのではないか」とあらぬ推測をするようになります。

しかし、ご経験されている方も多いかと思いますが、直接的なコミュニケーションをされるとイラっとすることも多いですよね。

あまりにもズケズケと言うので、相手のこちらに対する敬意が感じられなかったり、相手がただの傲慢な人にしか見えなかったり、やたらと攻撃的に感じられるものです。

この「ハイコンテクスト」「ローコンテクスト」というコミュニケーションの違いは国際政治の場でも影響を及ぼしています。以下はイスラエルとエジプトとの和平交渉の例ですが、お互いのコミュニケーションの相違が不信感を抱かせたことを物語っています:

In the Camp David negotiations that led to a peace treaty between Egypt and Israel, the Israeli preference for direct forms of communication and the Egyptian tendency to favor indirect forms sometimes exacerbated relations between the two sides. The Egyptians interpreted Israeli directness as aggressiveness and, therefore, an insult. The Israelis viewed Egyptian indirectness with impatience and suspected them of insincerity, of not saying what they meant. 

(出典/Salacuse, J. W, 2004, Negotiating: The Top Ten Ways that Culture Can Affect Your Negotiation)

「No」の使い方

上の「ハイコンテクスト」「ローコンテクスト」で触れたとおり、相手の気分や相手との関係によらず正直に「No」を言う文化と、そうでない文化があります。一般的には「ローコンテクスト」文化は「No」もはっきり表現する傾向があります。

一方、「ハイコンテクスト」文化では「No」は相手を拒絶してしまう表現として使わないようにしますし、「No」のところをあえて「Yes」と表現することさえあります。

口では「はい。。」と言いつつ、顔の表情や声のトーンを使ってなんとか「No」というこちらの意図を汲んでもらおうとしますよね。このあたりは皆さんもお心当たりがあるのではないでしょうか。

ローコンテクスト文化は自分の意図をそのまま表現することが正直さの表れとされ、それを重んじる文化です。

また「No」という立場をはっきり示すことで初めて交渉の協議が活性化することに繋がり、結果的に双方でいい議論ができると考えます。ですからこうした文化では、はっきりとモノを言わないハイコンテクスト文化の人達のことを「一緒に仕事をする気がないのか?」と勘繰るようになります。

またフランスやロシアなどでは、頭では「Yes」でもあえて「No!」を頻繁に言うことがあります。

これは彼等が今の議論にかなり乗り気になっている証左というのですが。。。そんなの、わかりにくいですよね。

ひとつだけ誤解のないように申し上げておきますが、アメリカは別ページでも触れたとおり相手に否定的なフィードバックをする際は間接的な表現を使うことがよくあります。もちろんこれもそのときの文脈次第というのもありますが、一応頭に入れておいた方がいいと思います。

感情表現の多寡

日本や欧米諸国では感情表現を多用しませんし、特にネガティブな感情をビジネスの場で表す人は敬遠されるばかりか、パートナーとして信用されません。

ところがラテン系ヨーロッパ人(イタリア、フランス、スペイン等)や南米、中東では感情表現がビジネスの場でよく見受けられます。そうした地域では感情を表に出すこと、イコール正直さを示すものとして受け入れられています。

逆に、感情表現がない相手については「何を考えているのかわからない」という評価をしてしまいがちです。

議論構築の仕方

「結論を先に」

アングロサクソン系の人たちは明快、かつ簡潔に話すことを基本としています。

最近は日本のMBAやビジネス・ミュニケーションについての研修などでも「まず結論や本題を先に簡潔に述べる。それからその結論に至った事実やデータなどを示す」と語られることが多くなっているような気がします。

メールでのやり取りでも、まず言いたいことを冒頭に述べて、それからその背景を述べていくというスタイルも多く見受けられるようになりました。

「結論を最後に」

一方、ラテンヨーロッパやドイツ、南米などではそれとは逆で、「まず背景説明、調査の概要説明、参考にした資料等々の説明のあとで、最後に結論を示す」ことが多いようです。

これは日本の「起承転結」に近いですし、今もプレゼンというと、この方法が採用されている企業も多いと思います。

こうした違いでどういう問題が起こるかというと、「まず結論」を聞きたい人にとっては「最後に結論」を言う人のプレゼンはじっと最後まで聞かなければわからないので耐え難いものになります。

逆に、「最後に結論を聞きたい」人の中では、冒頭でいきなり「結論」が出ると「何の背景説明もないのに、こちらのことを騙そうとしてるのでは?」というネガティブな感情を引き起こしてしまいます。

この話す順番というのは結構重要です。例えば日本の算数の授業では公式をさらっと流して計算問題に多くの時間を費やします。

これがラテン・ヨーロッパや南米では公式を突き詰めることに時間を費やし、計算問題は非常に少ないそうです。日本の教育で慣れた私達からすれば、「円周率が3.14なのはなぜか?」という話を延々されてしまうと、いつになったら「円周率=3.14」を使った練習問題をさせてくれるんだろう?となるのと同じです。

意思決定の仕方

一般的に個人主義的とされる国々(欧米諸国)の交渉者は数人のチームで構成され、それぞれの地位の高低によらず会社の代表としてその場で意思決定できる権限を持っています。

こうした国々では先程述べた「契約に持ち込むことが交渉の目的」であることが多く、その場で一つ一つ意思決定をしながら相手との合意を探っていくわけです。

一方、日本では交渉チームというと大所帯になることもしばしばです。

交渉過程にもよりますが、交渉といいながら実は相手の出方を見るだけだったり、相手から情報を引き出すことに時間とエネルギーがかけられていることが多いのではないでしょうか。

そして今日の協議が終われば上司に報告、判断を仰ぐという流れになるかと思いますが、こうした日本のやり方は非常に時間がかかっていまいます。欧米諸国の交渉者からすると、話がなかなか前に進まずにイライラしてしまうわけですね。

時間の捉え方

別の記事で触れていますが、時間をどう捉えるかは文化によって異なります。日本人をはじめ「時間厳守」、「時は金なり」が社会通念として存在している文化もあれば、そうした考えが全くない「時間にユルイ」文化もあります。

そうした文化背景を持つ相手との協議では、日本人からすると以下の点が気になります。

  • 交渉の会議が始まる時間になっても参加者が揃わない
  • 相手側の意思決定者がいつまで経っても現れない
  • 会議にかかってくる電話に躊躇なく出るため、交渉や会談が中断してしまう
  • 部外者が遠慮なく入室してきて、交渉と関係のない話をし始める
  • あらかじめ決められた議題と関係のない話をし始める

詳しくは別ページに譲りますが、こうした「ポリクロニック文化」を背景にもつ交渉者が相手だと、あれこれ時間に小うるさく言っても響きません。こちらが時間に余裕を持って接していくのが最も懸命です。

(出典)
・エドワード.T.ホール (1959). 沈黙の言葉(南雲堂)
LeBaron, M. (2003). Culture and Conflict.
Meyer, E. (2015). Getting to Si, Ja, Oui, Hai, and Da.
Meyer, E. (2015). The Culture Map: Decoding How People Think, Lead, and Get Things Done Across Cultures
LeBaron, M. (2003). Culture and Conflict.
Salacuse, J, W. (2004). Negotiating: The Top Ten Ways that Culture can Affect Your Negotiation.