海外における理想の上司とは?

明治安田生命が「新入社員が選ぶ理想の上司」というアンケート調査を実施しており、2021年の結果が公表されています。日本の新入社員の方がどんな人を「理想の上司」としてイメージしているのか、大変興味深いものがありました。

明治安田生命「理想の上司」アンケート調査を実施!

これによると、男性も女性も以下のような性質がキーワードのようです。
「指導力がある」「実力がある」
「親しみやすい」「頼もしい」

言い換えると、

まだ若くて何も知らない自分に、しっかりと道を示してくれる人、
自分が抱えている不安に理解を示してくれる人、
これまでの仕事で輝かしい実績がある人、
失敗があっても受け止め、味方になって励ましてくれる人、

そんなイメージでしょうか。

私は日本で上司らしいことは何もしたことはないのですが、これまで数カ国で上司っぽいこともしてきました。振り返ってみますと、一般的な日本人の感覚でいう理想の上司像と、他の国における理想の上司像はほぼ同じなのではないかと思います。

ただし、現地で上司として振る舞うにあたり、日本では普通の振る舞いでも、現地のスタッフからは反発された経験もたくさんあります。

これまでの反省をもとに、国外で上司としてどう振る舞うべきかを考えてみます。

時間にうるさく言わない

いわゆる途上国と呼ばれるところでは日本と比べ時間感覚に「ユルい」人が多いのが特徴です。東南アジアはそれほどでもないにせよ、中東やアフリカ、大洋州、南アメリカは時間におおらかな人が多いように思います。

私のいるヨルダンでも時間について事細かく言う人は少ないです。

始業時間に遅れてくる、
ミーティングに遅刻する、
作業の締切りを守らない、
というのは日常茶飯事ですが、ここではそれらのことに逐一目くじら立てて部下を叱責している人はいません。

以前の投稿でも書きましたが、たかだか30分、1時間の遅刻ぐらいでガタガタ説教をたれる人は「器の小さい人」という見方しかされません。計画どおりに物事を進めること、そのためにスケジュールや時間を守るということにあまり価値を認めない文化なのです。

そういうところですから、私も普段は時間のことで厳しく言わないようにしています。文句を言ったところでスタッフのヤル気をなくさせ、ストレスを抱えさせるだけだからです。

しかし、どうしても時間に厳密にならなければならない場面というのが仕事には必ずあります。例えば日本から大事なお客さんが来る、支払いの期日が迫っている、というような場面です。そんなときに、私の部下がノコノコと遅れてきたり、お客さんに出さなければならない資料が揃っていない、支払いが期日までにできていないとなると、私の現地責任者としての評価にも影響を与えてしまいます。

だからこそ、「ココぞ!」という本当に大事なとき、絶対に外せないときに時間や締切りを死守してもらうため、普段は部下を自由に泳がせ、多少の遅刻や締切りを守れなくても文句を言わないことにしています。

 

家族事情への配慮を示すこと

海外では「仕事よりも家族」を公言する人も多いですし、ここヨルダンでもそうなのですが、

「今日は子供を病院に連れて行くので早退します」
「明日は両親の結婚記念日でパーティーの準備があるので休みます」
と平気で言ってくる部下がたくさんいます。

忙しいときに限ってそんなことを言ってくる人が多いので、

「は?何言ってんの?」

と口元まで出かかることがあるのですが、ここでもぐっとこらえて我慢をして

「うん、わかった~、お子さん、どうしたの?」
「ご両親の結婚記念日、何回目?どんな料理作るの?」

などと、さぞ余裕があるように努めて振る舞うことにしています。

ここは仕事や仕事上での人間関係よりも、家族上の問題や家族でのイベントの方が遥かに重視されるところです。これも上の時間の感覚と同じですが、深く根付いた社会認識、価値観ですので、それを容易に変えることはできないと考えています。

ただ、彼等も仕事を休んでしまったという罪悪感はあるようです。ですから、早退を認めてあげるとか、家族の用で休暇を取ることを認めてあげると、次に出勤してきたときにはしっかり仕事しようとします。

普段から欠勤や早退ばかりでサボりまくった挙句、仕事もしないのであれば問題にしますが、何もない日にしっかり仕事してくれればそれでいいのではないかと考えています。

その場で即決する

日本社会での意思決定は一般的に「合意主義」と言われます。

一番重要なのは責任者のハンコですが、日本ではそこに行くまでの過程で多くの人の同意を示すハンコが必要になります。そして必要な人から効率よくハンコをもらうため、根回しをしておいたり、非公式な場でコミュニケーションを取ることも必要になります。

異文化コミュニケーションの専門家エリン・メイヤー氏によると、日本の他スウェーデンやオランダ、ドイツでも合意による意思決定が行われる傾向があるとのことです。

しかし、中国やインド、ロシア、フランスやアメリカなどは日本と比較して遥かに「トップダウン」による意思決定が一般的だそうですし、これまで私が仕事した国々でもトップダウンが圧倒的に多かったです。

根回しや非公式なコミュニケーションによる事前の話し合いが一切ない、という意味ではないのですが、それでもその場で責任者が一発で答えを出すことが重視されます。

皆さんも聞かれたことがあるかもしれませんが、日本は合意主義の傾向が非常に強いため多くの人の合意が必要になり、意思決定に時間がかかります。その分、一旦合意が形成されるとチーム全員がまとまって同じ方向を向いて仕事が進むというメリットもあります。

一方、トップダウンが慣例となっている国では意思決定にかかる時間は非常に短いです。会議で重要な懸案事項があっても、その場でリーダーが短時間で意思決定をして即実践することが重視されます。しかし新しい情報が入ったり、状況が変わればまた意思決定をし直しますので、チームがあっちに行ったりこっちに行ったりということも往々にしてあります。

いずれにせよ、トップダウンが当たり前の国では意思決定に時間をかけませんし、リーダーにはその場で意思決定をし、さっさとスタッフに指示を出して行動させることが求められます。

そういう国でモタモタと「○○の意見を聞かないと~」「○○にも相談しないと~」なんてやっていると、その場で「ダメ上司」の烙印が押されてしまいます

「いい・悪い」ということではなく、その国の習慣に応じた意思決定方法を採用した方が何かと都合がいいと考えています。

上司がとるべき振る舞いについては、それぞれの国で無意識のうちに形成されている理想像があります。そして異国ではそれに沿った振る舞いをしていかなければ仕事がしにくくなるというのが現実だと思います。