「おもてなし」と「奥ゆかしさ」に関する一考察

私は中東のヨルダンという国で仕事をしていますが、ここの人達がこれほどまでに「人間関係」を重視するとは想像もしていませんでした。


その人間関係を作る上で、ここではコーヒーや紅茶を飲みながら「仕事以外の」雑談をすることが不可欠です。

日本でも接待などの場面で相手をどうおもてなしするか、もてなされる方にもそれなりのマナーがあるように、ここでも

客人を「いかにおもてなしをするか」
客人は「いかにおもてなしを受けるか」

が大事になります。

しかしヨルダンに来た頃はそれがよくわからず戸惑ったものです。

ヨルダンでの望ましい「おもてなし」の受け方

ヨルダン人と会うとき、ミーティングであれ、ちょっとした確認や質問をしに同僚の部屋を訪ねた場面であれ、部屋に入って腰を下ろすと

「何を飲みますか?」

と必ず聞かれます。


そう聞かれて私は

「あ、じゃあコーヒーをいただきます」

などと無邪気に答えていたのですが、

中東でのマナーに関する情報にあたる中で、上のようなやり取りがあったときの

「望ましいおもてなしの受け方」

に関して以下のような記述を目にしました。

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相手が飲み物を何にするかを聞いてきたとき、
即座に「コーヒーお願いします」というのは

「無粋」
「いやしい、礼儀を知らない人間だ」

という解釈をされてしまいます。

「何を飲むか」を聞かれたら
「私は結構です」とまず丁寧に相手の申し出を断ります。

すると相手は「いやいや、何が飲みたいかな?」
とさらに聞いてきます。

そうして初めて「じゃあコーヒーを頂きます」
と答えるのです。

そうすることで相手はあなたのことを

「大変奥ゆかしい、礼儀正しい人間だ」と

あなたへの敬意をさらに高めることになるでしょう。
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これを読んで
私は「なんてことだ!」と深くショックを受けました。

「何を飲むか」と聞かれて「コーヒー!」なんて即答していた私は、限りなく礼儀知らずで「はしたない」日本人に見えていたことでしょう。

これって「奥ゆかしい」って言えますか!?

私の事務所にも紅茶が数種類、それに話のネタに緑茶や「ほうじ茶」もあります。

コーヒーはお湯を注ぐだけのネスカフェもありますが、ここの人が好むトルコ・コーヒーや、フィルターで淹れるためのコーヒーセットも常備してあります。

ヨルダンではコーヒーと一緒にお水も出てくることが多いのですが、お水を入れるコップや水差しも用意してあります。


コーヒーと紅茶に合うような甘いお菓子やナッツ入りのチョコレートなども定期的に買い足してますし、

こちらの人が紅茶に好んで入れるミントの葉も、新鮮なものを2-3日おきにスタッフに買ってきてもらっています。

毎日、仕事の関係者など最低誰かひとりは私の部屋を訪ねてくるので、一応私なりに

「おもてなし」

をしないとと思うわけです。



それで誰かが私の部屋を訪問してきたとき、彼らが腰を下ろしたタイミングで私から「何飲む?」と聞きます。

すると彼らは

「いやいやミスター・オカベ、気にしないでくれ。
喉渇いてないから」

「いやいやコウイチ、気にしないでくれ。
ここに来る前のミーティングで飲んだから」

「いやいやコウイチ、気にしないでくれ。
ちょこっと寄っただけだから」

というように彼らはまず「奥ゆかしく」断ってくるのです。



以前の私は、そんな彼らの「奥ゆかしさ」が理解できず

「あ、そう、喉渇いてないのか」

「あ、飲み物ですでにおなか一杯なんだ」

「なんだ、忙しいのか」

とばかりに、それを真に受けてそれ以上飲み物をすすめることをしませんでした。


彼らとしては、私がさらに飲み物をすすめることを期待していたんだろうと考えると大いに反省させられました。


ならばと、

いったんこちらからの申し出を「奥ゆかしく」断った彼らに対し

「いやいや、
僕もちょうど何か飲もうかなあと思ってたんよ」

などとさらに言うと、

彼らはいかにもすまなそうに

「オカベに気を遣わせてしまって申し訳ない」

というような表情を出しつつ、女性は胸に手を当てながら

「ありがとう、じゃあコーヒーで」

「ではあなたのおもてなしをお受けします、
私は紅茶を頂きますわ」

となるわけです。



そして飲み物とお菓子を「どうぞ」と出すと、

「喉渇いてない」
「ここに来る前のミーティングで飲んだ」

と言った彼らが、お菓子やチョコをバリバリ食べながら紅茶を3杯も飲み干していくことが普通ですし、

「ちょこっと寄っただけ」

の人間が、コーヒーを飲みながら「仕事と全然関係のない話」を1時間以上していくのです。



一体、どこが「奥ゆかしい」んでしょうか w

「おもてなし」と仕事の関係

以前は、いくらこちらがお茶やコーヒーをすすめたからと言っても長居されるのが辛いことも多かったです。

彼らはアポなしで訪問してくることも多いので、彼らがやって来ることで手掛けていたことを中断しなければならないからです。


しかし、そうやって彼らとコーヒーとお茶で仕事と関係のない話を重ねることで確実に相手との距離感が近くなり、その距離感が全部仕事に跳ね返ってくることを実感するようになりました。


「上」の人達となるとその時の状況にもよりますが、たいていの場合は突然訪問しても嫌な顔をする人はいません。

どれだけ忙しそうでも、むしろ

「よく来たな」
「よく寄ってくれたね」
「それで何飲む?」

で迎えられることがほとんどなので、こちらもそうやって対応するのが一番だと考え「おもてなし」に励んでいるのです。