異文化適応は「個人スキル」だと考えられがちですが、実際の現場では、そのバックにある「会社からの支援」が欠かせないと思います。
グローバル展開の一環として、多くの企業が英語教育や異文化理解、異文化コミュニケーションの研修を提供しています。
仕事への取り組み方の違い
バックグラウンドの異なる相手とどうコミュニケーションするか
考え方の違う相手と仕事をする上でのマインドセット。
いずれも個人が身につけておくべき大切なことです。
そして、多くの企業がその先に期待しているのは
「社員にこうした研修を受けてもらえば、現地の人たちとうまくやってくれるだろう」
「海外のパートナーとも円滑に仕事を進め、期待する成果を上げてくれるだろう」
ということではないでしょうか。
しかし、多くの企業はここで社員へのサポートを終えてしまいます。
異文化と英語を勉強させて「行ってらっしゃ〜い」で、社員に「あとは自分でうまくやってね」で放置してしまうのです。

海外の人たちと仕事に取り組む中で、異文化理解などの研修で学ぶことは決してマイナスではありません。
それでも、現実とのギャップを感じることがあります。
「教科書通り」に対応したつもりでも、現地の受け止め方が違うことで思わぬトラブルになることもありますし
一つひとつは大きな問題ではなくても、小さな違和感が積み重なることでジワジワとストレスになっていくこともあります。
だから会社組織としては
「研修を提供した。これで社員もパワーアップしただろう」
で終わらせるのではなく、
「この社員は実際にどんな悩みや困難に直面しているのだろう」
と観察し、状況に応じたサポートを提供する視点が必要です。
例えば僕自身が現地で困惑することの一つに、意思決定に関する権限や裁量があります。
海外のパートナーや取引先とのコミュニケーションで、どう自己主張すべきか。
そうしたことは研修で耳にタコができるほど学びました。
でも、コミュニケーション以前の問題として
「そもそも自分には、思っていることをそのまま伝えられる権限や裁量がない」
ということがあります。
現地で「これは会社にとってもいい話だ!」という場面があっても
本社からの承認やGoサインがなければ、そこに一歩踏み込むことはできません。
そうすると現地でできるコミュニケーションも
「本社と相談してみます」
としか言えないわけで、現地のパートナーからも
「決定権のない、使えないヤツ」
と判断され信頼してもらえなくなります。
せっかく研修で異文化コミュニケーションを学んでも、それを使う以前の問題があるわけです。

現地スタッフの育成についても同じです。
現地をよく知り、人とのネットワークを持っているのは、言うまでもなく現地のスタッフです。
彼らが自分たちで仕事を進められるようにするためには、彼らを会社にとって重要な人材として育てていく必要があります。
ある時、現地スタッフの給与が、他社やその国の標準と比較して低く抑えられていることに気づきました。
日本の会社、日本人と仕事することを誇りに思い、よくやってくれる現地スタッフ。
彼らを重用するため、現地スタッフの給与アップを本社に打診したものの、ずっと「なしのつぶて」。
その結果、現地スタッフから見ても
「自分たちはいつまで経っても日本人の言うことを聞くだけの存在」
にすぎず、将来が見えない組織になってしまう。
そして、絶対去ってほしくない優秀な人材が他へ行ってしまった時の無念さ。
こうした問題は、社員に「異文化適応能力が足りない」なんて言葉では片づけられないのではないでしょうか。
現地のスタッフやパートナーとうまく仕事をするために異文化や英語を一生懸命勉強しても、
それをうまく活かせる環境と、そうでない環境があるように思います。
だからこそ、異文化適応を「個人が身につけるべきスキル」だけで終わらせないことが重要です。
グローバル環境での仕事を本当に支えるのは「異文化対応力」「語学力」だけではなく、海外で円滑に仕事を回すための組織の仕組みなのだと思います。
