小さい頃、どこかのご家庭から漂ってくるカレーの匂いに違和感を感じたことってありませんか。
僕は母が作ってくれるカレーが「一番おいしいカレー」だと思っていたので、よそのお宅のカレーの香りがおいしくなさそうな匂いに感じたのです。
これまでいろんな国の人たちと仕事をしてきましたが、それはまるで様々な味のカレーと向き合うようなものです。
国籍や年齢はもとより、メンバーそれぞれが持っている経験や実績、スキル、語学力に加え、組織の中での役割や役職も違います。
そんなバラバラの人たちとうまく仕事をまわすには、ある時には辛口のスパイスを多めにしたり、別のときにはスープ中心のカレーにしたりと、味や調理法の調整をしなければなりません。
これはとっても面倒な作業です。
なぜなら誰しも好みのカレーや慣れ親しんだ味があるから。
だから何か一つにまとめようとすると、どこかで誰かが妥協したり、目をつぶって食べてもらわないといけない場面が出てくるのです。
そんな混乱をおさめる一番簡単な方法。
それは
「他のカレーは作り方がおかしい、マズい」
「我が家のカレーが世界一おいしい」
と自分の好みのカレー、自分が一番馴染みのある味を周りに押し付けることです。
これと同じ構造なのが『自民族中心主義』で、これは
「自分の国や民族が他よりも優れている」
という認識をもつことです。
言い換えると、自国の文化や生活スタイル、仕事の仕方、価値観が絶対的に正しいと考え、
周囲に対して優越感をもったり、自分と異なる価値観を「間違ったもの」として評価しない態度のことです。
これは海外の人たちと仕事したり関係を築く上で大きな障害になります。
だいぶ前の話ですが、海外でのチームに日本人がいたとき、彼らの愚痴を聞くのが日常だったことがあります。
・現地のヤツらは計画通りに仕事を進めない
・現地のスタッフは逐一言わないと動かない
・現地のスタッフは家族の用事で仕事をよく休むから責任感がない、信用して任せられない
・現地のスタッフは終業時間になったら他の人を手伝わずにサッサと帰ってしまう
最後には
「だからコイツらはダメなんだ」
という愚痴を日本人の同僚から数え切れないほどたくさん聞かされました。
・日本人は注意深く計画を立て、その計画通りに仕事を進めるから成果が出せる
・何も言われなくても相手の意図や指示を理解して行動するから仕事を効率的に進められる
・家族との時間を多少犠牲にしても仕事の責任を果たすから周囲からの信用が高まる
・忙しくて大変なメンバーがいたら終業時間を過ぎていても手伝うからチーム力が高まる
「そうやって日本は経済成長できたんだ」
「だから日本人はスゴイんだ」と。
そうして現地の人に仕事を任せなかったり
日本人だけで全てを決定してしまったり、
計画の遅延や遅刻、終業時間にさっさと帰ろうとする現地のスタッフに怒鳴りまくっている日本人の言動は目に余るものがありました。
たとえそんな明らかな態度でなくとも、慣れない味のカレーをパクっと口に含んだ途端に「ウっ」となるように、
こちらを見下しているかどうかは相手のちょっとした態度から相手に伝わってしまうものです。
こちらが美味しいと思っているカレーを「ウエっ」とされたり、自分の好みのカレーが他よりもおいしいんだと他を差し置いて滔々と語る人。
そんな人と一体だれが一緒にカレーを作りたいと思うのでしょうか。
自分の国や文化を称賛し、誇りを持つことは尊いと思います。
しかしそれが嵩じるあまり、他の国に対して優越感を持ったり、異なる仕事の仕方をする相手をこきおろしたところで相手への嫌悪感が増すだけです。
必要なのは
・相手のカレーにはどんな具材が入っているのか、
・調理の時にどんなこだわりがあるのか、
・どんな隠し味を使っているのか、それによって何がどうなるのか
を聞いてみることです。
案外そんなところに共感できることがあったり、新しい発見があったりするものです。