イスラム圏における仕事と「ラマダン」

イスラム教-ラマダン-ムスリム

今日はイスラム教徒にとっての新年です。「ラマダン」が終わり、家族で新年の食事をし、おめかしをして親戚の家を訪ね歩いている元同僚たちの姿が目に浮かびます。

今回の投稿では、イスラム圏における仕事に影響を与える「ラマダン」について解説し、そこで何に気をつけていけば良いかを解説します。

イスラム教の教えに対する敬意

僕はこれまで長い間海外で仕事をしてきましたが、その半分はイスラム圏での仕事でした。

イスラム教の戒律が日常を支配している環境で、ムスリムの人々と信頼関係を築くこと、彼らとともに仕事をすることの難しさを日本人として、外国人として感じることが多かったです。

彼らの宗教観に根差した人生観や日常生活のあり方に驚かされることもありました。

でも「ラマダン」が明けて新年を迎え、家族でお祝いしたり、新調した服を着てお出かけし、親族で集まって楽しい時間を過ごしている様子は本当に幸福そうでした。

どんな宗教でも目指すところは『平和で穏やかな日常』なんだろうなと思い至り、ただただ彼らの価値観に深い敬意を払わずにいられませんでした。

ラマダンとは?

ラマダンというのは新年が始まる約1ヶ月前の期間のことです。

「日の出から日の入りまで断食が行われる」ということで聞いたことがある方もおられるのではないでしょうか。


ラマダンが開始になる日は毎年変わる上、その正確な日付は直前になるまでわかりません

カレンダーには例えば「3月1日からラマダン」との記載があるのですが、「これは変更になる可能性があります」という注釈が付きます。

ラマダンは新月から始まるのですが、それなりに権威のある

「お月さまを見る担当の人」

が各国にいて

「たしかにお月さまが完全に消えた!
(新月になった!)」

という状況が『目で』確認されて初めて「ラマダン開始」が宣言されるのです。

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ラマダンによって変わる職場の雰囲気

思い起こせばこのラマダンが始まる前と始まった後では、職場の雰囲気がガラリと違いました。

ラマダンの開始日が近づくとオフィスは蜂の巣をつついたような騒ぎで、ラマダンが始まるまでに

「あの課題を解決しておこう」
「あの用事を済ませておこう」
「あの案件をXXと協議して方向性を決めておこう」

などなど本当に忙しい日々が続きます。皆さんが年末を迎える頃と同じような状況がラマダン前に見受けられます。



しかしラマダン前の忙しさがウソのように、ラマダン期間に入ると仕事はほとんどストップしてしまいます

僕のスタッフも日の出から日の入りまで、食事はおろか水もコーヒーも紅茶もタバコもやりません。人によってはツバを飲み込むのもダメだそうです。


普段なら出勤してコーヒーを飲みながら同僚たちとペチャクチャおしゃべりしてようやくエンジンがかかり、それから仕事に取りかかるスタッフたち。

朝からほとんど無言で、職場は

どよ~~~~~~~ん・・・としてます。

「今日は(今日も)仕事ヤル気
全然ありませ~~~ん」

という空気がオフィスに充満しています。

なぜ「ラマダン」中の仕事はツラいのか?

彼等が一番つらいのは日中に断食で飲み食いできないことではなく、やたらと眠たいことなのだそうです。

ラマダン中、日中は断食をしていますが、日の入りになった瞬間に「ドカ食い」します。

ラマダンって断食月だからスーパーも食材が売れないんじゃないかと思っていましたが、とんでもない!ラマダン期間中の方がスーパーは売上げが上がるそうです。

そして食事が終わればデザートを食べ、お茶を飲み、みなでゲームをしたりおしゃべりに興じたり、家族で外出したり夜市を冷やかして歩きます。

そんなこんなでラマダン中は夜寝るのがとても遅いらしく、午前1時2時は当たり前。そんな睡眠不足で出勤するけどコーヒーも水も飲めない、タバコも吸えない・・

おまけに年によっては日中の気温が30度を超えるようになり、その暑さで何をするのも億劫になるのです。

 

ラマダン中はスタッフの前で飲み食いできる状況ではないので、僕も彼らにならって朝食と昼食を抜いて断食していました。

しかし集中力が続くのは午前中が精一杯で、お昼頃から明らかにボーっとしてきて眠くなるのです。

飲み物、食べ物を全く口にしていないので、身体がエネルギーを使わないよう自己防衛反応を起こすのかもしれません。

他のオフィスをのぞくと、男性などは「熱中症になったパンダ」みたいに椅子から身体がずり落ちた体勢で、なんとか目だけが開いているような人もたくさんいます。

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こんな状況でまともに仕事なんかできるわけがないのです。

ミーティングするよ!なんて言った日には、全員から冷たーい視線で突き倒されそうになります💦


「これをアラビア語に翻訳して、みんなに配っておいてくれる?」

なんて秘書さんに頼むと

「ええぇええぇええっ???」

という秘書さんからの無言の抵抗の眼差しがおそろしいです💦


関係先からメールの返信が来てる!と思いメールを開くと、こちらの質問には全然答えておらず、ただ一言

「ok」

と小さく記されているだけ💧

せめて「ok」の「o」ぐらい「Shift」キーを押して大文字にならんのか?と叫びたくなります。

ということで、仕事が進まない日が続くのがラマダンです。

「ラマダン」中の日本からの要求はツラいよ

そんなことを知ってか知らずか、日本からは矢継ぎ早に仕事の催促のメールが来ます。

「ショートノーティスですみませんが
 一両日中に回答お願いします」

​「大変恐れ入りますが
 今週中にお返事頂けますでしょうか」

「週明けまでに何とかなりますかね?」


どれもこれも現地の人としっかりお話しなければならない案件ばかりです。

ふとパソコンから目を上げてスタッフを見ると「どよ~~~~~ん・・・」とした雰囲気ですから、

いったい彼らにどう声をかけ、彼らの脳みそをどうしたらフル回転させられるのかを考えただけで深い溜息が出てしまうのです。



「東京本社のSさん、メール拝見しました。
 しかしごめんなさい、
 こっちはラマダン中ですから、
 一両日中なんて勘弁してください」


「東京本社のKさん、メールの件ですが
 あなたラマダンって知ってます?
 みんな仕事しないんですよ。
 今週中に返事しろ?
 はっはっは、無理無理」


「東京本社のYさん、メールの件ですが
 来週中に回答なんて無理ですよ~、
 だって今ラマダンだもん。
 ラマダン明けじゃあダメ?」

な~んてメールが返せたら、さぞ楽だったんですけどね。。。

イスラム教圏での仕事:真っ先にすべきこと

イスラム圏の人たちと仕事をする上で最も重要なことは、まずカレンダーで「ラマダン」と、もう一つ大事な宗教行事として「犠牲祭」の時期がいつ頃なのかを確認することです。

その前後一週間は、重要なミーティングや大規模なイベントなどを入れないようにすることが必須です。


もちろんラマダン中に重要な会議がある場合、しっかり対応してくれる方も多いです。

でもやはり彼らにとっての宗教の持つ意味、そこでの習慣の重みをわきまえた上で仕事のスケジュールを管理していくことがお互いの信頼関係を築く上で最も基本的なことではないかと思うのです。